「スチーム・ガール」エリザベス・ベア

 

ツイッター界隈で話題になったヒューゴー賞作家によるSFスチームパンクである。舞台は蒸気機関が史実よりも発達した19世紀アメリカの都市・ラピッドシティ。街の高級娼館で縫い子(娼婦の隠語。アメリカでは実際に表向きは服を仕立てる縫い子として娼婦に客を取らせていたらしい。日本で言うところの仲居と客の自由恋愛、みたいな建前か)をしている少女カレンのもとにインド人の美少女プリヤが逃げ込んでくるところから始まる。プリヤを追うのは街の悪党バンドル。娼婦たちを奴隷のように扱うバンドルと娼館の女傑マダム率いるカレンたち娼婦は対立を深くする。その最中、街では娼婦を鞭で打ち殺し、ゴミ捨て場に捨て去る連続殺人鬼も現れる。連続殺人鬼を追って現れた黒人副保安官とその相棒でコマンチェ族のインディアンを仲間に加え、カレンはプリヤを守るべく鋼鉄の鎧を纏う…!

美少女スチームパンク百合アクションといえば直近ではプリンセス・プリンシパルが放映されていたが、今作もプリプリに負けていない。また冲方丁マルドゥック・スクランブルのバロットも娼婦のヒロインだったが、本作のヒロインのそのパーソナリティは対照的である。カレンは赤毛のアンのような語り口の想像力の逞しい前向きな少女だが、床を掃除するより男と寝る方が楽に稼げるとあっけらかんと言ってのける。そんなカレンが一目惚れしたのは異国の褐色の美少女プリヤ。初めは自分が作った服をプレゼントしたり、街をお買い物デートしたりする清い交際をしているが、「私があなたに特別な気持ちを抱いてると告げたらこの子はどう思うだろう?引いちゃう?だったら言うのやめとこうかな…」みたいな葛藤をしたりする(かわいい)。そんな彼女がバンドルたち悪党の容赦ない仕打ちに奮い立ち、悪党をとっちめたりとっちめられたりしながらも最後は派手に爆発四散させる。そのヘンテコな器に盛られた最高に王道なストーリーに思わず膝を打った。

SF要素も抜かりはない。鋼鉄の触手を持つ潜水艦や人を操る怪しげな装置、人を焼く手袋などふしぎの海のナディアに出てくるような発明品が出てくるし、なによりカレンは中に乗り込む鋼鉄のミシンに乗って大暴れする。何を言ってるのかわからないと思うが私もよくわかってない。

娼婦たちのリーダー格のオネエ様、ローンレンジャーのような保安官とインディアンの相棒(マグニフィセント・セブンのチザムとレッドハーベストっぽい)など脇を固めるキャラも個性的だ。

とにかく溌剌としてかわいいキャラと胸熱な展開に2日で読み切ってしまった。久しぶりに路地裏ラノベ少年の血が騒ぐ逸品でした。おススメです。

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