「うまや怪談」「三題噺 示現流幽霊」愛川晶

 

最前の記事でこの作品について触れたのでこの感想を再掲することにする。

二つ目の才能溢れる落語家・寿笑亭福の助とその妻・亮子、そして福の助の師匠で安楽椅子探偵の山桜亭馬春が落語界で起こる事件を落語をもって解決する落語ミステリーこと神田紅梅亭寄席物帳シリーズの第3弾、第4弾。ここで第1シリーズの区切りとなる。僕がもっとも好きな「日常の謎」ものので、僕がもっとも映像化を待ち望んで止まない作品である。

日常の謎と言えば殺人事件などではなく、日常で起きた一見なんでもないような謎を推理によって解決するミステリのジャンルである。日本では北村薫がこの道の第一人者だが、彼の代表作が落語家の円紫さんを探偵に据えたシリーズであり、落語とミステリの組み合わせは愛川晶の専売特許ではない(他にも山口雅也の落語魅捨理全集なんかもある)。

それでは神田紅梅亭のなにが出色かというと、この作品の日常の謎があくまでも落語界の日常に根ざした謎である、というところである。現職の落語家である福の助は紅梅亭を中心とした寄席で仕事をしてるわけだが、その楽屋での世間話や高座から聞こえてくる落語が事件の発端となることが多い。また落語そのものの謎や欠落に言及し、その謎を解き明かす話もある。福の助や馬春師匠は落語家で名探偵でもある円紫さんとは違い、あくまで落語の名探偵なのだ。

本作でも演目変更ご法度の落語会で拠ん所無い理由で演目を変更せざるを得なくなった福の助が当意即妙で高座を乗り切る話や、認知症の落語家がかつて噺し切れなかった三題噺を残されたヒントから再現する話など落研出身の作者の現職を唸らせる落語の知識と創作落語の腕が遺憾無く発揮されている。

そして、他にも僕がこの作品を好きなところに連ドラのように広がっていくキャラクターの繋がりと暖かいドラマがある。福の助は亮子の助けもあって二つ目ながら大役をこなし出世していくし、半引退状態の馬春師匠は弟子たちの献身によって復帰公演へと漕ぎ着けるし、馬春の末弟子のはる平にも春が訪れる。もしこの作品がドラマ化されたらタイガー&ドラゴン以来の落語ドラマとして落語ブームの火付け役になるだろうと考えているのだが、超入門落語THE MOVIEとかやってるNHKさんいっちょどうですか。

なお、第2作の芝浜謎噺に出てきた野ざらし死体遺棄事件が夜鷹の野ざらしとして、そして第4作のタイトルともなっている三題噺 示現流幽霊が柳家小せんによって音源化されているので興味があればそちらから聴いてもらっていいと思います。

2日で2冊読めるくらいサクサク読めるし、落語欲がむくむく持ち上がる落語入門編としても抜群の出来なので本当におススメです。

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