「アンデッドガール・マーダーファルス1 」青崎有吾

今では平成のエラリー・クイーンと呼ばれる青崎有吾だが、当初はライトノベルを書いていたそうだ。いくつか賞に作品を応募するものの、落選。そのときの選評に「ライトノベルではなく、ミステリの方がいい」と書かれたことが彼の作家としての方向性を決めた…

「ロード・エルメロイ二世の事件簿1 case.剥離城アドラ」三田誠

大絶賛アニメ放映中のロード・エルメロイ二世の事件簿の原作とも言うべきノベル版だ。本作の主人公、ロード・エルメロイ二世は魔術界を三分する勢力の一つ、魔術協会、その総本山である時計塔に所属する魔術師の中でも12人しか存在しない君主(ロード)の1人…

「水魑の如き沈むもの」三津田信三

「偉い不可解な状況でな、過去に人死にが出たという雨乞いの儀が、どうやら数年ぶりに奈良の山中の村で行われるらしいんや」 物語は怪奇幻想作家である主人公・刀城言耶の先輩であり、京都の由緒正しい神社の跡取りでもある在野の民俗学者・阿武隈烏によって…

「ジェリーフィッシュは凍らない」市川憂人

クリスティのそして誰もいなくなった。そして綾辻行人の十角館の殺人。その共通点はクローズドサークルにおいて臨場した登場人物がひとりずつ殺害されてしまい、容疑者が誰もいなくなってしまうという不可解な状況。閉じられた環境の中で犯人はその中にいる…

「ドルの向こう側」ロス・マクドナルド

アメリカのハードボイルド小説の御三家の一角、ロス・マクドナルドの産み出した探偵リュウ・アーチャーが登場する作品は二十作程度ある。わたしが読んだのはデビュー作である動く標的、象牙色の嘲笑、彼の黄金期と呼ばれる中期三作であるウィチャリー家の女、…

「御手洗潔対シャーロック・ホームズ」柄刀一

「ホームズ?」 「ああ!あのホラ吹きで、無教養で、コカイン中毒の妄想で、現実と幻想の区別がつかなくなってる愛嬌のかたまりみたいなイギリス人か」 ー島田荘司「占星術殺人事件」より抜粋 イギリスが産んだ世界に誇る名探偵の代名詞、シャーロック・ホー…

「金子文子と朴烈」イ・ジュンイク

映画館で予告編を観るのが好きだ。特に初めて観る予告編ばかりであったら、本編など始まらずに予告編だけをずっと観ていたい気にさえなるときがある。この映画もたまたま予告編を観ただけで、事前の情報などなにも調べずに映画館へと足を運んだ。 「わたしは…

「天国でまた会おう」アルベール・デュポンテル

久しぶりに鎮火気味だった映画熱が盛り返して来たので、ふらっと県内唯一のミニシアターであるソレイユに行ってきた。地元にあったレトロミニシアターは潰れちゃったけど、ここは令和になっても相変わらず上映が始まるとき、ブザーの音で始まるのがいい。香…

「さよならよ、こんにちは」円居挽

円居挽という名前を聞くと、京都のことを深く思い出す。私自身京都のボンクラ大学生であった縁もあって、大学の近所の本屋で並んでいた作者の烏丸ルヴォワールを手に取ったのがもう7年前近く(なぜかシリーズ1作目から読まない私の悪癖がここでも発揮されて…

「悪霊の館」二階堂黎人

先日、帰省中に奈良へ出かけた際にたまたま入った古書店が思いの外、推理小説の取り揃えが良く、セールをやっていたのもあって思わず長居してしまった。家も手狭になってきたし、旅先で本を買うのも荷物になっていけないと思いながら毎回ついつい買ってしま…

「プランD」ジーモン・ウルバン

もし、ある歴史的事件が成功あるいは失敗していたらその後の歴史はどうなっていたか、という視点で描かれた歴史改変小説と言えばディックの高い城の男などのSF小説が高名だが、ミステリとの親和性も高い。たとえばマイケル・シェイボンのユダヤ警官同盟はイ…

「アメリカ銃の謎」エラリー・クイーン

ニューヨーク、ブロードウェイに一大ロデオショーがやってきた。〈暴れん坊〉ビル・グラント座長に率いられるロデオ一座の目玉は往年の西部劇スターであるバック・ホーンのカムバックであった。クイーン家の愛すべき従僕であるジューナにせがまれ、ロデオシ…

「乱鴉の島」有栖川有栖

「あらかじめ告白しておきますが、私は断定できるほど確かな推論は持ち合わせていないんですよ。あるのはただ、想像を束ねた棍棒みたいなものです。これからそいつで、犯人に一撃をくれます」 魔眼の匣を読んでたら猛烈に有栖川有栖が読みたくなったので、前…

「魔眼の匣の殺人」今村昌弘

前作、屍人荘の殺人は2017年の顔だった。鮎川哲也賞にて大賞を得たのを皮切りに、このミステリーがすごい!にて国内編1位、週刊文春ミステリ・ベスト10国内編1位、2018本格ミステリベスト10国内編1位、本格ミステリ大賞小説部門受賞などデビュー作にもかかわ…

「世界を売った男」陳浩基

とあるビルの一室で折り重なって死んでいる男女。その男女は夫婦で妻の腹の中には赤ん坊がいた。この2人と赤ん坊にどれほどの恨みがあったか犯人の凶刃は女の腹をも刺してあり、凄惨たる様子を示していた。その惨状にも怯むことなく彼は警察官としての正義を…

「キャッツ・アイ」R・オースティン・フリーマン

シャーロック・ホームズのライバルと言えば誰を思い浮かべるだろうか。犯罪界のナポレオンと謳われたモリアーティ教授か、それとも探偵としての顔も持つ神出鬼没の怪盗紳士アルセーヌ・ルパンであろうか。確かに彼らはホームズの好敵手と呼べる名悪党である…

「トリフィド時代 食人植物の恐怖」ジョン・ウィンダム

ある夜、緑色に光る流星群が降り注ぐロンドンの病院において、仕事中の事故によって目を怪我し入院していたビル・メイスンはその世紀の天体ショーを見逃した数少ない人間の1人だった。翌朝、誰も現れない病室で外の世界の様子に違和感を抱いた彼は目を覆う包…

「殺しのデュエット」エリオット・ウェスト

ロサンゼルスの中年私立探偵ジム・ブレイニーは秘書で恋人のベデリアとの映画館でのデートを楽しんだ後、駐車場にて麻薬の売人と覆面捜査官の撃ち合いに遭遇する。咄嗟の出来事に思わず拳銃を抜いて逃げる売人たちに発砲してしまった彼は売人を殺してしまう…

「〈ミリオンカ〉の女 うらじおすとく花暦」 高城高

1892年、ロシア帝国。極東の玄関口であり、ロシア人以外に清国、朝鮮、そして日本人など多様な国籍を持つ人種が入り乱れる国際色豊かな港町ウラジオストクに一隻の日本船が入港した。その船にはひとりの女性の姿があった。ウラジオストクに商会を構えるアメ…

「虚構推理短編集 岩永琴子の出現」城平京

「やあ、おひいさまを信じて悪いことはありませんよ。どっこい、どっこい」 (「ギロチン三四郎」より抜粋) 城平京と言えば漫画原作者としてのイメージが強いかもしれない。私たちの世代で言えばガンガンで連載されていたスパイラル~推理の絆~が夕方にア…

「入れ子の水は月に轢かれ」オーガニックゆうき

本作は早川書房が主催するプロにもアマにも門戸が開かれたミステリーの新人賞であるアガサ・クリスティー賞の第8回受賞作である。 ゲリラ豪雨によって知的障害を持つ双子の兄・潤を亡くした岡本駿。母子家庭で生活に困窮していた岡本家において潤の障害者年…

今年のガツンと来た10冊

今年もいよいよ終わりである。 振り返れば辛いことだらけだったけど、楽しいこともたくさんあった。 その中に、このブログを始めたこと、そしてこのブログによって作者の方や翻訳者の方から温かい言葉を頂けたことがある。 これは本当に嬉しかったなあ。 あ…

「暁の死線」ウィリアム・アイリッシュ

その男は彼女にとって一枚の桃色をしたダンスの切符でしかなかった。それも、二つにちぎった使用済みの半券。一枚十セントのなかから彼女の手にはいるニセント半の歩合。一晩じゅう、床の上いっぱいに、彼女の足をぐいぐい押しつづける一対の足。 物語はこの…

「江戸川乱歩作品集Ⅲ」江戸川乱歩

私が江戸川乱歩の面白さにハマったのは今年のことであったが、そのほとんどが明智小五郎を主人公とした探偵小説ばかりであった。そこで今回は少し毛色が違う作品を求めてみた。すなわち、乱歩のエロ・グロ・ナンセンスが散りばめられた変格(推理)小説の部…

「聖アウスラ修道院の惨劇」二階堂黎人

優れた建造物は優れた物語を産み出す。それも時に優れたキャラクターよりも雄弁に物語を語る、と私は思う。ルブランの奇岩城も、カーの髑髏城も、乱歩の幽霊塔も、宮崎駿のカリオストロの城も綾辻行人の館たちも、あれらの建造物なくしてその物語は輝かない…

「首無館の殺人」月原渉

とある屋敷の一室でひとりの女が目を覚ます。ぼんやりとする頭で周囲にいる人間を見回すも、どの顔にも見覚えがない。女は記憶喪失になっていた。女は自分の名が宇江神華煉ということ、ここが横浜の祠乃沢という地にある斜陽の貿易商・宇江神家の館であると…

「鉤爪の収穫」エリック・ガルシア

男の子なら遺伝子レベルで無条件降伏してしまうようなものがこの世にはいくつかある。恐竜もその最たるもののひとつだろう。恐竜図鑑を見てそのスケールと造形のダイナミックさに胸打たれずに大人になった子どもがこの世にどれだけいるだろうか。そして、私…

「体育館の殺人」青崎有吾

私のこれまでの長くも短くもない人生の中で1日に2冊の本を一気に読み切ったことがあっただろうか。私が1番文学少年というか路地裏ラノベ少年をやっていたのは中学2年のときだったが、それでもあまりそういう経験はなかったと思う。少なくとも記憶にない。で…

「探偵は教室にいない」川澄浩平

昨年はやはり屍人荘の殺人の年であった。ネタバレ厳禁の斬新な基本設定(その禁はいまだに守られている。ミステリ畑の人間の義理堅さに頭が下がる)に包まれた確かな本格ミステリ。口コミで人気に火が着き、普段は鮎川哲也賞作品をスルーするような書店でも…

「埠頭三角暗闇市場」椎名誠

舞台は近未来。中・韓連合による大規模ゲリラが同時多発地盤崩壊作戦を決行し、十大都市全域が崩壊した「大破壊」を経た日本。経済も政治も中・韓連合に乗っ取られ、微細生物や病原菌がうようよする黒い雨が降り、異常進化した人語を解するヘンテコな野生生…