「旗師・冬狐堂 一 狐罠」北森鴻

私に好きな漫画を5作挙げろ、と言ったらいついかなるときも必ず挙げる作品にギャラリーフェイクがある。どれくらい好きかというとアニメ放送でハマって以来コンビニ版コミックを一度購入して読み込んだのにも関わらず香川に引っ越した際にもう一回コンビニで…

「紅蓮館の殺人」阿津川辰海

高校の同級生であり、探偵と助手の関係性にある葛城と田所は学校の勉強合宿の会場近くのとある屋敷を目指して宿を抜け出した。そこは彼らの憧れの推理小説の巨匠である財田雄山の別荘、通称・落日館であった。しかし、館を目指す登山中、落雷により山火事が…

「楽園とは探偵の不在なり」斜線堂有紀

5年前のある日を境に天使と呼ばれるようになった不気味な存在が出現した世界。天使はたったひとつのルールで人間たちの世界を縛ってしまった。 「2人以上の人間を殺した人間は天使によって地獄に堕とされる」 新しいルールによって戦争や大規模な犯罪が瞬く…

「冬雷」遠田潤子

うんざりするくらい長々しいこの自粛期間が明けたものの、思い返せば時間があった割にあまり本を読んでいなかった。張り切って買ったハードカバーが大外れだったり、何冊かの短編集をちまちま浮気しながら読んでみたりとあまり心動かされるような一冊が手元…

「仮名手本殺人事件」稲羽白菟

この読んだ本の感想をブログにあげるようになって1本目の感想が本作の前作にあたるの合邦の密室であったが、そのときわざわざブログを読んでコメントまでしてくださったのがその作者の稲羽先生であった。その後、何度かツイッター上でお話させていただくうち…

「1793」ニクラス・ナット・オ・ダーグ

1789年、フランス革命の勃発により、ヨーロッパの王政は揺らいでいた。絶対王政を敷いていたスウェーデン国王グスタフ3世は1792年、押さえつけていた貴族たちの手によって暗殺されてしまう。この物語はその一年後、ストックホルムにおいて幕が上がる。 街の…

「刑事マルティン・ベック 笑う警官」マイ・シューヴァル&ペール・ヴァール

ストックホルム症候群という言葉を聞いたことがあるだろうか。誘拐事件や監禁事件などの犯罪被害者が生存戦略として犯人との間に心理的なつながりを持とうとする心理状態、翻ってメディアでは犯人に対して被害者が好意や同情的な態度を持つようになる状態を…

「アンデッドガール・マーダーファルス1 」青崎有吾

今では平成のエラリー・クイーンと呼ばれる青崎有吾だが、当初はライトノベルを書いていたそうだ。いくつか賞に作品を応募するものの、落選。そのときの選評に「ライトノベルではなく、ミステリの方がいい」と書かれたことが彼の作家としての方向性を決めた…

「ロード・エルメロイ二世の事件簿1 case.剥離城アドラ」三田誠

大絶賛アニメ放映中のロード・エルメロイ二世の事件簿の原作とも言うべきノベル版だ。本作の主人公、ロード・エルメロイ二世は魔術界を三分する勢力の一つ、魔術協会、その総本山である時計塔に所属する魔術師の中でも12人しか存在しない君主(ロード)の1人…

「水魑の如き沈むもの」三津田信三

「偉い不可解な状況でな、過去に人死にが出たという雨乞いの儀が、どうやら数年ぶりに奈良の山中の村で行われるらしいんや」 物語は怪奇幻想作家である主人公・刀城言耶の先輩であり、京都の由緒正しい神社の跡取りでもある在野の民俗学者・阿武隈烏によって…

「ジェリーフィッシュは凍らない」市川憂人

クリスティのそして誰もいなくなった。そして綾辻行人の十角館の殺人。その共通点はクローズドサークルにおいて臨場した登場人物がひとりずつ殺害されてしまい、容疑者が誰もいなくなってしまうという不可解な状況。閉じられた環境の中で犯人はその中にいる…

「ドルの向こう側」ロス・マクドナルド

アメリカのハードボイルド小説の御三家の一角、ロス・マクドナルドの産み出した探偵リュウ・アーチャーが登場する作品は二十作程度ある。わたしが読んだのはデビュー作である動く標的、象牙色の嘲笑、彼の黄金期と呼ばれる中期三作であるウィチャリー家の女、…

「御手洗潔対シャーロック・ホームズ」柄刀一

「ホームズ?」 「ああ!あのホラ吹きで、無教養で、コカイン中毒の妄想で、現実と幻想の区別がつかなくなってる愛嬌のかたまりみたいなイギリス人か」 ー島田荘司「占星術殺人事件」より抜粋 イギリスが産んだ世界に誇る名探偵の代名詞、シャーロック・ホー…

「金子文子と朴烈」イ・ジュンイク

映画館で予告編を観るのが好きだ。特に初めて観る予告編ばかりであったら、本編など始まらずに予告編だけをずっと観ていたい気にさえなるときがある。この映画もたまたま予告編を観ただけで、事前の情報などなにも調べずに映画館へと足を運んだ。 「わたしは…

「天国でまた会おう」アルベール・デュポンテル

久しぶりに鎮火気味だった映画熱が盛り返して来たので、ふらっと県内唯一のミニシアターであるソレイユに行ってきた。地元にあったレトロミニシアターは潰れちゃったけど、ここは令和になっても相変わらず上映が始まるとき、ブザーの音で始まるのがいい。香…

「さよならよ、こんにちは」円居挽

円居挽という名前を聞くと、京都のことを深く思い出す。私自身京都のボンクラ大学生であった縁もあって、大学の近所の本屋で並んでいた作者の烏丸ルヴォワールを手に取ったのがもう7年前近く(なぜかシリーズ1作目から読まない私の悪癖がここでも発揮されて…

「悪霊の館」二階堂黎人

先日、帰省中に奈良へ出かけた際にたまたま入った古書店が思いの外、推理小説の取り揃えが良く、セールをやっていたのもあって思わず長居してしまった。家も手狭になってきたし、旅先で本を買うのも荷物になっていけないと思いながら毎回ついつい買ってしま…

「プランD」ジーモン・ウルバン

もし、ある歴史的事件が成功あるいは失敗していたらその後の歴史はどうなっていたか、という視点で描かれた歴史改変小説と言えばディックの高い城の男などのSF小説が高名だが、ミステリとの親和性も高い。たとえばマイケル・シェイボンのユダヤ警官同盟はイ…

「アメリカ銃の謎」エラリー・クイーン

ニューヨーク、ブロードウェイに一大ロデオショーがやってきた。〈暴れん坊〉ビル・グラント座長に率いられるロデオ一座の目玉は往年の西部劇スターであるバック・ホーンのカムバックであった。クイーン家の愛すべき従僕であるジューナにせがまれ、ロデオシ…

「乱鴉の島」有栖川有栖

「あらかじめ告白しておきますが、私は断定できるほど確かな推論は持ち合わせていないんですよ。あるのはただ、想像を束ねた棍棒みたいなものです。これからそいつで、犯人に一撃をくれます」 魔眼の匣を読んでたら猛烈に有栖川有栖が読みたくなったので、前…

「魔眼の匣の殺人」今村昌弘

前作、屍人荘の殺人は2017年の顔だった。鮎川哲也賞にて大賞を得たのを皮切りに、このミステリーがすごい!にて国内編1位、週刊文春ミステリ・ベスト10国内編1位、2018本格ミステリベスト10国内編1位、本格ミステリ大賞小説部門受賞などデビュー作にもかかわ…

「世界を売った男」陳浩基

とあるビルの一室で折り重なって死んでいる男女。その男女は夫婦で妻の腹の中には赤ん坊がいた。この2人と赤ん坊にどれほどの恨みがあったか犯人の凶刃は女の腹をも刺してあり、凄惨たる様子を示していた。その惨状にも怯むことなく彼は警察官としての正義を…

「キャッツ・アイ」R・オースティン・フリーマン

シャーロック・ホームズのライバルと言えば誰を思い浮かべるだろうか。犯罪界のナポレオンと謳われたモリアーティ教授か、それとも探偵としての顔も持つ神出鬼没の怪盗紳士アルセーヌ・ルパンであろうか。確かに彼らはホームズの好敵手と呼べる名悪党である…

「トリフィド時代 食人植物の恐怖」ジョン・ウィンダム

ある夜、緑色に光る流星群が降り注ぐロンドンの病院において、仕事中の事故によって目を怪我し入院していたビル・メイスンはその世紀の天体ショーを見逃した数少ない人間の1人だった。翌朝、誰も現れない病室で外の世界の様子に違和感を抱いた彼は目を覆う包…

「殺しのデュエット」エリオット・ウェスト

ロサンゼルスの中年私立探偵ジム・ブレイニーは秘書で恋人のベデリアとの映画館でのデートを楽しんだ後、駐車場にて麻薬の売人と覆面捜査官の撃ち合いに遭遇する。咄嗟の出来事に思わず拳銃を抜いて逃げる売人たちに発砲してしまった彼は売人を殺してしまう…

「〈ミリオンカ〉の女 うらじおすとく花暦」 高城高

1892年、ロシア帝国。極東の玄関口であり、ロシア人以外に清国、朝鮮、そして日本人など多様な国籍を持つ人種が入り乱れる国際色豊かな港町ウラジオストクに一隻の日本船が入港した。その船にはひとりの女性の姿があった。ウラジオストクに商会を構えるアメ…

「虚構推理短編集 岩永琴子の出現」城平京

「やあ、おひいさまを信じて悪いことはありませんよ。どっこい、どっこい」 (「ギロチン三四郎」より抜粋) 城平京と言えば漫画原作者としてのイメージが強いかもしれない。私たちの世代で言えばガンガンで連載されていたスパイラル~推理の絆~が夕方にア…

「入れ子の水は月に轢かれ」オーガニックゆうき

本作は早川書房が主催するプロにもアマにも門戸が開かれたミステリーの新人賞であるアガサ・クリスティー賞の第8回受賞作である。 ゲリラ豪雨によって知的障害を持つ双子の兄・潤を亡くした岡本駿。母子家庭で生活に困窮していた岡本家において潤の障害者年…

今年のガツンと来た10冊

今年もいよいよ終わりである。 振り返れば辛いことだらけだったけど、楽しいこともたくさんあった。 その中に、このブログを始めたこと、そしてこのブログによって作者の方や翻訳者の方から温かい言葉を頂けたことがある。 これは本当に嬉しかったなあ。 あ…

「暁の死線」ウィリアム・アイリッシュ

その男は彼女にとって一枚の桃色をしたダンスの切符でしかなかった。それも、二つにちぎった使用済みの半券。一枚十セントのなかから彼女の手にはいるニセント半の歩合。一晩じゅう、床の上いっぱいに、彼女の足をぐいぐい押しつづける一対の足。 物語はこの…