2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「第四の扉」ポール・アルテ

1987年。日本では綾辻行人が十角館の殺人でデビューし、社会派ミステリに押されていた本格ミステリを華々しく復興して新本格ブームを巻き起こしていた時と同じくしてフランスでは本書が刊行された。幽霊、密室、不可能犯罪。かの黄金時代の巨頭ジョン・ディ…

「夜を希う」マイクル・コリータ

「血に濡れた夜がなければきっと、ここへ辿り着けなかった」 なかなか印象的な帯の惹句だ。私は作者のマイクル・コリータのこともこの作品の名前も全く知らなかったが、この帯に惹かれて手に取ってみた。 フランク・テンプル三世。朝鮮戦争で銀星章を授与さ…

「アックスマンのジャズ」レイ・セレスティン

「恨みを抱えた人間なんて、ニューオーリンズにはごまんといる」と言った。そのうちルカを見つめて、シーツにこすりつけていた石鹸を持ち上げた。「そういう気の毒な連中を集めてぎゅっと握る」節くれだった細い指で石鹸を握りしめた。 「そうすりゃ悪魔がで…

「元年春之祭」陸秋槎

以前、13・67の感想を投稿した際に私はこれからは中国系ミステリを目にする機会が増えていくかもしれない、なんてことを言った。13・67を読んだのが昨年末の大晦日であったから、その再会はとても早く訪れた。しかも、本作は二匹目のドジョウなどでは到底な…

「コードネーム・ヴェリティ」エリザベス・ウェイン

1943年、第二次世界大戦最中のドイツ占領下のフランス。そこではイギリス特殊作戦実行部員の女性諜報員がナチスによって捕らえられ、厳しい尋問を受けていた。彼女は冷酷な親衛隊大尉とイギリス軍の無線暗号や空軍の情報を明け渡す取引に応じる。祖国の裏切…

「名探偵の証明」市川哲也

ひとつのジャンルが生まれ、多くの作品が編み出されて膨張していくうちにやがてジャンルは熟成していく。そうすると、どのジャンルでも内への問いかけ、ジャンルの根源にあるものへの考察に重きを置かれていくようになっていく。ミステリというジャンルにお…

「エラリー・クイーンの冒険」エラリー・クイーン

波乱万丈の精神的な冒険を送る修道僧そのもののエラリーは、人生を気に入っていた。そしてまた、探偵(本人はその呼称を心から嫌っているのだが)でもあるので必然的にこのような人生を送らざるを得ないのだ。 (「ひげのある女の冒険」より抜粋) これまで…