「アンデッドガール・マーダーファルス1 」青崎有吾


今では平成のエラリー・クイーンと呼ばれる青崎有吾だが、当初はライトノベルを書いていたそうだ。いくつか賞に作品を応募するものの、落選。そのときの選評に「ライトノベルではなく、ミステリの方がいい」と書かれたことが彼の作家としての方向性を決めたのだから面白いが、そんな彼がライトノベル作家になっていたらどうなっていたのか。そんな読者の希望が結実したようなモンスターミステリバトル小説が本作アンデッドガール・マーダーファルスである。

舞台は19世紀末の欧州。世界的に人間の手によって怪物が狩り立てられ、その数を減らしていた最中、怪物事件専門を謳う探偵とその助手がいた。奇妙な鳥籠を持ち、奇妙な風体と、奇妙な噺方をする青年の助手・真打津軽。そして、その鳥籠の中から声のみが聞こえる女探偵・輪堂鴉夜。鳥籠使いと呼ばれる彼女らはとある目的の為に極東から欧州へと流れ、闇に蠢く怪物事件を解決していく…。

同じく講談社タイガから刊行されている虚構推理と同じく怪物×ミステリをウリにした特殊ミステリだが、流石の青崎有吾、吸血鬼や人造人間などすっかりお馴染みの怪物をメインと据えながらもその事件の解決が実に明快にロジカルであり、そして意外性があり、心地よい。

怪物以外にも世界的な空想上の有名人、特にミステリの名探偵や周辺の人物を複数登場させているのもオタク的には嬉しいポイントだ。そもそも19世紀末の欧州と言えば、シャーロック・ホームズが活躍し、数多くの名探偵が競って創作されていた推理小説の黎明期だ。本作でもパリの新聞の編集長やベルギーの警部などミステリを少し齧ったことのある人ならにやりとするような有名人が物語に顔を出している。

そして、同じ時代はホラー、SF小説の勃興期でもある。吸血鬼ドラキュラ、ジギル博士とハイド氏、透明人間、フランケンシュタイン…これらの今でも愛されている怪物たちもこの時代に不気味に産声を上げた。そんな彼らが名探偵を相手取って戦いを繰り広げるのだからワクワクしないはずがない。

作者のビビッドなキャラクター造形は裏染天馬シリーズでも光っていたが、やはり本格推理小説という枠から外れた本作の方がより自由に翼を広げているように思えた。特に対怪物戦闘のスペシャリストでありながら、噺家のような語り口でとにかくうまいこと言おうとして(そして存外うまく言えている場面が多い)奇矯に振る舞う真打津軽は私のお気に入りだ。

物語は鴉夜と津軽の共通の敵がリーグ・オブ・レジェンドばりのチームアップしたところで幕を下ろした。次はフランスの大怪盗とイギリスの名探偵が合間見える展開になるらしい。オタクの大好物ではないか。読むのが楽しみだ。

 

…そう言えば、直前に読んだのがロード・エルメロイ二世の事件簿だったんだけど、特殊ミステリってだけでなく、喋る何かが入った鳥籠を持った探偵助手が出てくる、って変な符号があったのも不思議な感じだ。

 

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書影。イラストはエアギアや天上天下、現在は化物語のコミカライズを連載中の大暮維人

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同じ講談社タイガの怪物×ミステリ小説の虚構推理。アニメ化までもう半年切りましたね!楽しみですね!

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同じく19世紀末の欧州を舞台に史実・空想の偉人が入り乱れる久正人のジャバウォッキー。

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読んでいて西尾維新が書くバトル小説っぽいな、とちょっと思ったのだが(喋りながら敵をボコボコにするとことか)、刀語が一番近い気がする。津軽の決め台詞が少し七花っぽいし。

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SF・ホラー小説版アベンジャーズことリーグ・オブ・レジェンド。久しぶりに観たい。