「埠頭三角暗闇市場」椎名誠


舞台は近未来。中・韓連合による大規模ゲリラが同時多発地盤崩壊作戦を決行し、十大都市全域が崩壊した「大破壊」を経た日本。経済も政治も中・韓連合に乗っ取られ、微細生物や病原菌がうようよする黒い雨が降り、異常進化した人語を解するヘンテコな野生生物や魚人やアンドロイドなどが普通に暮らす社会。大破壊の際に倒壊したビルと埠頭に打ち上げられた豪華客船が奇跡的にぶつかり、お互いを支え合うことで生まれた三角形の空間。人々はそこに闇市を形成し、さまざまな違法ビジネスと生活を営むようになる。その名を埠頭三角暗闇市場といった。

傾いたビルの中で怪しげな生体融合手術を生業とする闇医者・北山のもとに絶世の中国美女が現れる。美女は復讐のためにある生物を自分の体に移植してほしいと北山に依頼する。また東京湾に浮かぶ首都警察の悪徳警官・古島はパトロール中に人語を話す口汚い犬を拾い、さらにアナコンダの精神を持ったアナコンダ男の始末までも負う羽目となる。

二人はお互いに相関しながら、やがてトーキョーを揺るがす大事件へと関わっていくこととなる…。

読み終わって一言。なんじゃこりゃ、って感じだ。SFであるのは間違いない。中国語が溢れて、人体に有害な雨が降りしきる街と言うとブレードランナーみたいだが、それを期待して読むとちょっと違う。ハードボイルドさはない。ブラックマーケットを舞台にしたノワール感もなければ、国家的陰謀が絡むスリラー感もない。何か大きな事件が起こっていることは感じさせるものの、それもなかなか前へと進まない。進んだかと思うと今度はとんでもない方向へと突っ走っていく。そして、幕切れは潔いほど唐突だ。なんじゃこりゃ。

作品としての骨格は歪みまくっていて端正とはとても呼べる代物ではないが、この作品の魅力はその物語を形作ってる特異なパーツだと思う。変な職業の変な人間と変な生態系の変な生物と変な科学技術が淡々とゆるく描かれていく。しかし、これがなかなか読ませる。人と動物の精神を入れ替える手術を得意としている北山の手術エピソードはグロテスクだがユーモアに溢れているし(ウツ病の愛人と淫乱なチンパンジーの精神を入れ替えた金持ちが腎虚で死ぬ話が好き)、彼と仲の良いウージー(禿頭猿にカワウソの遺伝子が混じった変な丁寧語を話す生物)との交流も心温まる。

久正人の神やUMAや妖怪などが人間みたいに暮らしているエリア51ギレルモ・デル・トロヘルボーイ/ゴールデンアーミーのトロールの市場、金田一蓮十郎ジャングルはいつもハレのちグゥの変な生物がいるジャングルやグゥの腹の中が好きな人は楽しめるんじゃないかと思う。変な作品だが、なんだか楽しかった。

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書影。イラストが作中あちこちに挟み込まれているので突拍子のないSF描写もイメージがしやすい。

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久正人エリア51。世界中の神や妖怪、UMAが集められた街を舞台に人間の女探偵マッコイが大暴れする痛快傑作。ラストは大団円だが悲哀に満ちてる。ヘルボーイ原作のマイク・ミニョーラの影響が大。作者の新作のカムヤライドも面白いよ!

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ギレルモ・デル・トロヘルボーイ/ゴールデンアーミー。妖精や怪しげなアイテムが売買されるトロールの市場はこれだけで一見の価値ありの圧巻のセット。オタクの宝箱。

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金田一蓮十郎ジャングルはいつもハレのちグゥ少年ガンガンの黄金時代のギャグ漫画。変な生物が当たり前のように生息するジャングルが舞台。後半の人間ドラマも良かったけど前半の破茶滅茶ギャグの方が好きだったな。この時代のガンガンのギャグ漫画にはマスコット的な変な生物が溢れていた気がする。