「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」

今更語るに野暮なトム・クルーズの代表作であるM:Iシリーズの第六作目である。前作ローグ・ネイションから引き続き、クリストファー・マッカリーが監督を務めている。

 

以下、多少のネタバレを含みます。

 

IMF(Impossible Mission Force:不可能作戦部隊)のエージェントであるイーサン・ハントのもとに組織から新たな指令が届く。奪われた三つのプルトニウムを回収し、核兵器製造を未然に防ぐという任務をルーサー、ベンジーの仲間とともに成功寸前まで漕ぎつけたイーサンだったが、突如謎の集団による襲撃を受け、仲間の命と任務を天秤にかけ、プルトニウムを奪われてしまう。イーサンたちはかつて彼らによって壊滅させられた犯罪組織“シンジケート”の残党である“アポストル”と謎の存在であるジョン・ラークと呼ばれる男による世界同時核兵器テロを防ぐべく、ホワイト・ウィドウという仲介屋の女と接触するためにパリへと赴く。その任務にはかねてよりIMFを危険視するCIAから監視のために長官肝入りのエージェントであるオーガスト・ウォーカーが同行していた。

紆余曲折を経て、ホワイト・ウィドウの信頼を得るため、以前IMFが逮捕したシンジケートのボス、ソロモン・レーンを脱走させることとなるイーサンたち。しかし、その任務中にかつてシンジケートに所属し、以前の任務で共闘した女スパイ・イルサと敵対することに。さらにウォーカーも表向きは協力しながらも裏で秘かな動きを見せていた…。

 

毎回トム・クルーズの命を心配してしまうまでに過激なスタントシーンが話題になる本シリーズだが(今作では骨折ってるらしい。マジで)、今回もその部分は健在である(数か月もヘイロー降下のシーンだけ撮り続けてたって言うんだからそのイカレ具合は本物だ)。しかし、今回は前作までのような「トムさん、歳の割によーやらはりますわー」って笑いながら観れる感じではなくなっている。本当に痛そうだし、なにより真に迫ったキツさがあった。トム・クルーズも今年で56歳(うちの父親と変わらねえ…)だし、前作でもそんなにありがたくなかったスタントシーン(前作はスパイ同士の騙し合いの方が抜群に面白かった)だし「もうやめとけばいいのに…」と思っていた。観る前までは。

今作のイーサン・ハントを観て真っ先に感じたのは“老い”だ。過酷な任務と様々な組織の思惑に肉体と精神を摩耗させ、悪夢にうなされ、意志に反して疲れ切った男の姿。もちろん年齢の割にはタフだし、走るのも速い。しかし、ゴースト・プロトコルのときに感じたような若さはもはやイーサンにはない。動作のひとつひとつに覚悟がいる感じ。

思い出したのはリーサル・ウェポン4のときのリッグス(メル・ギブソン)だ。歳とともに自慢だった射撃の腕も衰え、レーザーサイトに頼るようになった彼は若い暗殺者(ジェット・リー)に終始翻弄される。幸いにも彼はマータフ(ダニー・グローヴァー)という相棒のおかげで暗殺者には勝利し、シリーズに終止符を打つが、きっと彼はあの後もう刑事としては以前のように活躍はできなかっただろう。

今回の一連の真に迫った傷だらけのスタントシーンの数々から、イーサンにもそういうキャリアの終焉が近づいてきているように感じた。シリーズの前身であるスパイ大作戦に終止符を打ったイーサンであるから彼も自身の引き際には自ら潔く幕を引いてほしいものである。

 

今回も監督のマッカリーの作劇が素晴らしかった。ゴースト・プロトコルで確立したよくも悪くもエンタメ大作としての路線(大好きなんだけども!)を穏やかに修正してソリッドでクラシカルなスパイ映画路線にシリーズを引き戻した手腕は見事で、とても脚本なしで撮影現場でぶっつけでシーンを作っているとは信じられなかった。ぜひ次作も彼に監督をしてほしい。

 

散々トムのスタントにいちゃもんをつけてきた後で恐縮だが、それでもやっぱりトムのアクションは素晴らしかった。全力疾走のシーンの数々はどれも素晴らしかったが、特によかったのがラストのワンシーンだ。愛した女性にこれまでの自分の行い、そしてこれからも彼女に寄り添えないことに対する謝罪とともに敵の後を全力で追うイーサン。その全力疾走が持つ高潔さと悲壮さ。トムの全力疾走で泣かされる日が来るとは!毎作毎作全力で走ってきたトムだから産み出せた名シーンだと思う。

 

今作で初顔見世となったCIAのエージェント・ウォーカー役のヘンリー・カヴィルもよかった。彼自身コードネームU.N.C.L.E.のナポレオン・ソロ役以来のスパイ映画で今作でもCIAの人だったけど(なんと今作でも路地に挟まってた)今回の彼はソロのときとはまた違うニヒルで筋肉がパンッパンのマッチョスパイ(スーパーマンのときよりパンッパンだった)でパンチが重そうな感じが最高だった。イーサンとウォーカーのふたりがトイレで謎の中国人(めちゃくちゃ強い。なぜか今作で一番強い。アリババの陰謀か)も最高。ここだけでもこの映画観る価値ある。そういやU.N.C.L.E.でもトイレぶっ壊してたなあ…。っていうかU.N.C.L.E.の続きまだかなあ…。

 

みんな大好きサイモン・ペッグのベンジーもドジっ子でかわいかった。

そして前作から続投の悪役ソロモン・レーン役のショーン・ハリスはあいかわらず声がカサカサだった。

 

「ミッションコンプリーッ!」\テテーン!/

って感じの気持ちいい快作ではないと思う。退屈だと思う人もいるだろうと思う。それでも私はこのソリッドでタフな手触りが大好物だった。そして、いつか来るトム・クルーズのM:Iの終りを考えずにはいられない。ぜひ劇場で観てほしい一作です。

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