「吸血の家」二階堂黎人

二階堂黎人作品を読むことを実は憧れながらもずっと手が伸びずにいた。氏の作品の代表作としてあまりに有名な人狼城の恐怖があるが、その全貌は全4巻、4000ページにも及び、ギネスブックに登録された世界最長の推理小説なのだ。京極夏彦の最厚作品である絡新…

「スチーム・ガール」エリザベス・ベア

ツイッター界隈で話題になったヒューゴー賞作家によるSFスチームパンクである。舞台は蒸気機関が史実よりも発達した19世紀アメリカの都市・ラピッドシティ。街の高級娼館で縫い子(娼婦の隠語。アメリカでは実際に表向きは服を仕立てる縫い子として娼婦に客…

「13・67」陳浩基

かねてより中国ミステリ界の振興に大きく尽力してきた島田荘司氏の推理小説大賞受賞作家による華文ミステリの話題作である。 物語は2013年の現代の香港からイギリスからの返還期の混乱、権力が腐敗した占領統治時代、1967年の反英闘争の騒乱の時代までをひと…

「シャーロック・ホームズ 絹の家」アンソニー・ホロヴィッツ

シャーロック・ホームズを扱ったパスティーシュ(文体模写、広義にパロディ)は本当に数多くある。その歴史は古く、ドイルの存命中にモーリス・ルブランが書いたルパン対ホームズが最も有名だろうか。他にも毒入りチョコレート事件のアントニィ・バークリー…

今週のお題「2018年上半期」

2018年上半期に読んだ本 屍人荘の殺人 今村昌弘 樽 F・W・クロフツ サマー・アポカリプス 笠井潔 ニューヨーク1954 デイヴィッド・C・テイラー うまや怪談 神田紅梅亭寄席物帳 愛川晶 三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳 愛川晶 幽霊塔 江戸川乱歩&宮崎駿…

「幽霊塔」江戸川乱歩&宮崎駿

恥ずかしながら初乱歩である。江戸川乱歩が日本の代表的名探偵・明智小五郎の産みの親であることは百も承知だし、映像化された作品は何本か観ているし、筋を知っている作品もいくつかある。満島ひかりの明智小五郎、超良かったですよね。しかし、乱歩を活字…

「真実の10メートル手前」 米澤穂信

ユーゴスラヴィアから日本に来た少女・マーヤが四人の高校生と過ごすきらきらとした日向のような日々と彼女が日本を去った後に訪れた夕闇のような寂寞の時間。その四人の高校生の中の一人、美しいロングヘアと無愛想にも捉えられる起伏の少ない美貌の中に途…

「その可能性はすでに考えた」 井上真偽

かなり前にクローズド宗教施設モノが好き、って話の流れで後輩のUくんにおススメしてもらって買ったまま今まで積んでた一作。読んでみて納得のクローズド宗教施設モノで、大変意欲的な構成の良作だった。Uくん、本当にありがとう。 奇跡がこの世にあることを…

「『アリス・ミラー城』殺人事件」 北山猛邦

騙された。本ッッッ当に気持ちよく騙されたッッッ!なんでこんな面白い本を2年近く積ん読にしてたのか!自分をぶん殴りたい! 本作の作者は北山猛邦。西尾維新や佐藤友哉と同時期に『クロック城』殺人事件でメフィスト賞を受賞し、ファウストなどで活躍した…

「ピアノ・ソナタ」S.J.ローザン

ABC(American born Chinese:アメリカ生まれの中国人)の女探偵リディア・チンとアイルランド系の中年探偵ビル・スミスの私立探偵コンビがニューヨークで起きる事件を捜査するシリーズの第2作。本シリーズの特徴は一作ごとに物語の語り手がリディアとビルの…

「私が殺した少女」原尞

この度、14年ぶりの新作、それまでの明日が発売されたことが話題となっていたので始めて手に取った原尞だが目を剥くくらい面白く毎晩ページをめくる手が止まらなくなってしまった。和製ハードボイルドとか和製チャンドラーなんて言われる作家の中で僕が一番…

「探偵AIのリアル・ディープラーニング」早坂吝

人工知能が人間とバディを組む作品は数多あり、いい感じの作品を列挙しようにもこれもあるー、あれってそうだったけー?とフロッピーディスクにすら劣る記憶容量しかない自分なんかザルのように零れ落ちてしまう有様だ。そんな一大ジャンルと化した人工知能…

「二都物語」チャールズ・ディケンズ

べにはこべを読み終わって、フランス革命への興味がむくむくと湧いてきたのでなんかないかなー、と探してたら書店で見つけたから購入。そういやノーランのダークナイト・ライジングもこれの影響を受けているとどこかで読んだ記憶があった。しかし、名作文学…

「べにはこべ」バロネス・オルツィ

バロネス・オルツィと言えば安楽椅子探偵の先駆けである隅の老人の作者であり、綾辻行人の十角館の殺人の登場人物でミス研メンバーの気弱な女性オルツィのイメージからミステリ作家だというイメージが強く、このべにはこべもドイルにおける失われた世界とか…

「うまや怪談」「三題噺 示現流幽霊」愛川晶

最前の記事でこの作品について触れたのでこの感想を再掲することにする。 二つ目の才能溢れる落語家・寿笑亭福の助とその妻・亮子、そして福の助の師匠で安楽椅子探偵の山桜亭馬春が落語界で起こる事件を落語をもって解決する落語ミステリーこと神田紅梅亭寄…

「合邦の密室」稲葉白菟

島田荘司が故郷の広島県福山で優れた本格ミステリ作品を賞する地方文学賞・ばらのまち福山ミステリー文学賞の第9回新人賞準優秀賞作品である。 「お母さんはわたしに毒を飲ませました」 大阪府からの助成金カットの沙汰に揺れる文楽芸術協会。大阪文楽劇場で…

友人に捧ぐ

日々、大学のサークル仲間と読書の感想をラインで送りあったりしている。 わたしとしてはそれでも十分楽しいのだが、友人の1人が「ブログでも書いてみたら?」と勧めてくれたので少し調子に乗ってみようかとこのブログを始めてみることにする。 しばらくはラ…